大審問官

そう、お前は自分の偉業が福音書に書きとどめられ、末永く地の果てまで到達することを知っていたので、人間もお前に倣って奇跡を必要とせずに、神々とともにとどまるだろうと期待した。しかし、人間は奇跡をしりぞけるやいなや、ただちに神をもしりぞけてしまうことも、お前は知らなかった。なぜなら、人間は神よりはむしろ奇跡を求めているからなのだ。 P644

キリスト教ではなく仏教徒の祖母が、祖母に比べれば信仰心の低い母に対してよく愚痴っていた。「あんたは戦争も餓えも知らない。生きるか死ぬかの本当に大変な時を知らないから仏様を粗末にできるんだ。」
祖母が必要としていたのは確かに神様ではなく奇跡だったが、その無知を馬鹿にすることは私には出来ない。当時の住職が苦悩を背負った審問官だったかどうかは知る由も無いが、そういう意識で宗教と関わっている人は多いのではないかと思う。私がもし住職でも、極限状態の中では「信じていれば救われます」と言う他無いだろう。