アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)

村上春樹の小説を読むのは高校時代以来だ。7年ぶり。ノーベル賞のニュースを見て、久しぶりに読んでみたくなったのだ。なんだか講談社の思う壺ぽくて悔しい。
ジャズやクラシック音楽、古い映画が沢山出てくるところや、抽象的な比喩が相変わらずで安心した。高校生のころはほとんどそれだけを目当てに読んでた。


私の心に残ったのは、高橋が音楽をやめて弁護士を目指す理由を説明するシーンだ。なぜなら、私も音楽をやめて(しかも高橋と同じジャズを)、会計を学んでいるから。


高橋は裁判の傍聴をきっかけに、犯罪者と自分とを隔てている何かに対する認識を変える。

二つの世界を隔てている壁なんてものは、実際は存在しないのかもしれないぞって。もしあったとしても、はりぼてのぺらぺらの壁かもしれない。ひょいともたれかかったとたんに、突き抜けて向こう側に落っこちてしまうようなものかもしれない。というか、僕ら自身の中にあっち側がすでにこっそりと忍び込んできているのに、そのことに気づいていないだけなのかもしれない。」

その上で、法律や国家などの私たちを取り巻く社会的環境を、

僕が僕であり、君が君であることをこれっぽっちも考えてくれない巨大なタコのような動物

と感じ、恐れるようになる。

一人の人間が、たとえどのような人間であれ、巨大なタコのような動物にからめとられ、暗闇の中へ吸い込まれてゆく。どんな理屈をつけたところで、それはやりきれない光景なんだ。

だから、その恐怖を克服するために法律を学ぶというのだろうか?
本の主題に関わってくるのは最初の引用部分の“他者と自分を隔てる壁”なんだろうが、そんなことはいい。


書いみてようやく気づいたが、一人だけ青春小説じゃないか、高橋君。